佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

埋葬式

形あるものは
いかなる理力によって燃えるのか
熱は時に心を温め、
何故、憎悪に変化するのか
ささやかな芸術として刻まれたあなたの命は、
呼ばれることなく灰燼に帰す

身体に残る障害
こころに残る障害
あなたは何分同情し、何分で忘れたろう?
記憶も記録も劣化してしまう
追いつくには難しい速度で
世界を創ってしまった
構築され
瓦解し
また構築される
バビロンの塔をつくったのは石ではない
言語化できない傲慢さだ

言葉が酔っ払って勝手に喋っている
最初にエピローグが酔いつぶれ、
プロローグは浴びるようにジンライムを飲んでいる
エピグラムは白い家に直談判しに行ったが、
帰ってこない
きっと人買いだろう


贋作ばかりを描いてきた人間にとって、
正しい解釈は、買いたいくらい安価なのだ

この国の埋葬式に集った人々は、
本当の深淵を知らず
言葉の貧困に気づかない
きっと、ずっと、そうだろう
彼らはただここへやって来て、
そして元の暮らしに戻るだけだ
うるさいだけの犬の尻を蹴り上げ
バドワイザーコロナビール
どちらがうまいかを話しながら

国境の壁には何の意志も精神もない
欠落だらけの自己同一性に扇動されている徒労の列
オークションで母国が売り買いされている
理力の燃えていない、もう丸くない世界において、
あなたはひとりで立っていられるか?

大人たちよ

大人たちよ、子どもを外に出せ
泥まみれにして
手足に擦過傷をつけよう
君が大人になっても
虫とり網を捨てないでください
あちこち縫い合わせた八月の風景を忘れないで欲しい
棚田を駆け下り、
里芋の葉を傘にし、
夕立に降られ、
どんな悔恨も葬られた、
一面の自然に消える永久の夏

開錠/施錠

言いたかった
泣きながら言ってやりたかった
何も言うことがないのに、
震えながら沈黙を罵倒したかった
大切な人がより一層大切になる時、
私たちは初めて心から祈りを知った
大切なものが、どれほど大切であるかを

噂がコンマ何秒で世界をつくり変えていく
矛盾を支えている何者かが
人の愛憎のドアの鍵を簡単に開ける
凍っていて開かない秘密の扉を
懐から、燃え上がる盗人の鍵を取り出し
因果応報のもと、開錠する
灼熱としてこの世へ

炎の痛みは、開かれた
肉体は、いつだって拒絶できない
人が創り出した神に、姦通された
破壊は善であると教えられた
鳥が飛ぶほど、善とされた
「自由」というシュプレヒコール
行進する人々よ
その先に何があるのか、教えてくれ
君は今、何処に立っている?
歴史の中心か、あるいはその端か

《さざなみに
一言も言葉を捨ててはならない
一語も捨ててはならない
落としてしまったあの叫び声
九十九里の砂浜で
誰かが拾い、胸に収める》

あまりに苦痛を噛み締めていると、
時代の奥歯が壊れてしまうことがある
そんな風に捧げるのか、私やあなたは

人の住めないこの国を
盗人が命がけで施錠しようとしている
倫理の扉を、名もなき自由で凍らせて

極地にて

明日の朝がなければ
今日が成立する論理はその意味を失う
おわかりになりますか? 
今日という概念はただの箱である、と
透明な手が梱包し
あちこちの支店を経由して
家のドアを無益に叩く
凍りついた私に届けられる警鐘の愛

それは心臓という名で
一日に七〇〇〇リットルの更新を
血まみれで続けている
数えなくとも、私を生かし続ける
自分の耳で自分の心音を聴くことはできない

明日が成立し、
今日の終わらせ方を知る
神話の世界のように
世界中を飛ぶ火の龍
洗礼を受け目覚めた
私の裏側に隠れていた破壊の波
今生の別れのように、
くるぶしをひいていく沸騰した波

それでも
顔をあげれば
瞳孔が働く
耳が起きる
唇が求める
一杯のスタウトをください
一日のための、黒曜石のような煌めきを

《跪き、心臓は鼓動を続けることにして、
私は整理した自殺するための部屋を
もう一度、生活で汚すことにする
棄教のための遺書を食べ、便にして流した》

凍っていく
水平線に凍っていく
巨大な望遠鏡のような聴診器で
今年最後の光の鼓動に、私は耳を澄ます
白夜が終わる
長い極地の、
夜の到来
不眠症の始まり

新しい思想(加筆修正)

国民の義務だと謳って
他人の紅い汗を舐めながら、働くことばかり強制され
眠くなれば、二階から轡を点眼される
前回休んだのは、いつ転生した時だろう?
どの時代も一緒だった
ふたつ、みっつと死んだ数だけ影が増える

《スキャンダルに追われ、自分の放った矢に撃たれる
溺れているあの愚か者は誰だ? どの星の元首か?》

恥も外聞もない。乗り心地の良いデバイスに担がれ、
様々な認証とパスワードを打ち続けるのが貴方の仕事
機械と言えばその通りだが、功名心が人間の証明
貴方が命懸けでした仕事を、歴史に残したいだけ
貴方の嗜好品の中で、命は道具となり下がった

いつでもキレやすいように研がれ
白昼劇の悲しみを製造している、ひび割れた世界
収容所となった日本は、それくらいの娯楽が必要なのだ
首の脱臼が、その音が。

世界史と世界史が幾度もぶつかった。その度に
恒星がぶつかりあうように空気が裂けた
その隙間から神の「復活」として産まれ堕ちた
その音とも呼べない哀しき鳴動が
見慣れていたすべての風景を破棄した

本日正午から、人口調査が行われる、と
二〇二〇年に侵略した火星のラジオが伝える
努力目標だと謳って
精神障がい者の「人権」を村八分する
そして疑心暗鬼の生活が始まった
自由はどこにだって行けない
窓側の席から動けない

港で猫が幸福ならば
何故、我々にそれができないのか

浜辺の貝殻の貨幣で足を切る、海抜〇メートルの小国で、
少年少女が探している。
よせてはかえす波に消される、新しい思想を

飛ばなかったイカロスに価値はあるか?

時間をかけ、
にがい記憶を自分で沈黙させたのに、
ふとした瞬間、
ぱっくりとその縫い目は裂け、
鮮血が再び弾ける
焦がしてしまった自意識をおもわず飲み込んで
一人、生き急ぐように演じてきた
舞台の上で強迫的な幕がやっと下りる

擦過傷でも大なり小なり
トラウマを抱えている
そうやって生きてくしかない人
隠しながら生きてきた人
生存者の数より
死者の数が誉れ高い弾幕
密林の中に落とした、
人が勲章になる姿を表現する言葉は
まだ見つかっていない

壁に並ばせて、
メロディーのように一斉に射殺しても
その穴から
二一グラムの煙幕が立ち上り
明日も同じことが繰り返される
人の崖からぬっと伸びる、手
何処でもない場所へ、引きずり込もうとする
死の手わたし

そうやって青春を謳歌したのか?
祖父は歩兵として戦争へ行った
押し黙って、目の奥が黄疸で死んでいる
慕情など入る隙間もない景色しか見えない

いつもどこかで苛立っていた
戦闘機のプラモデルを無邪気につくる私を
思い切り打擲した。
そして、自ら納屋に入り
鍵を閉めろと怒鳴る

《飛ばなかったイカロスに価値はあるか?》

写真の裏に書かれた告白
あまりにも長かった
もう、祖父の戦いを暗幕で終わらせてやってください
ずっと背負っていた蝋の羽根を溶かし
鎮魂として白い涙が永遠に零れますように

新しい思想

国民の義務だと謳って
他人の紅い汗を舐めながら、働くことばかり強制され
眠くなれば、二階から轡を点眼される
前回休んだのは、いつ転生した時だろう?
どの時代も一緒だった
ふたつ、みっつと死んだ数だけ影が増える

《スキャンダルに追われ、自分の放った矢に撃たれる
溺れているあの愚か者は誰だ? どの星の元首か?》

恥も外聞もない。乗り心地の良いデバイスに担がれ、
様々な認証とパスワードを打ち続けるのが貴方の仕事
機械と言えばその通りだが、功名心が人間の証明
貴方が命懸けでした仕事を、歴史に残したいだけ
貴方の嗜好品の中で、命は道具となり下がった

いつでもキレやすいように研がれ
白昼劇の悲しみを製造している、ひび割れた世界
収容所となった日本は、それくらいの娯楽が必要なのだ
首の脱臼が、その音が。

世界史と世界史が幾度もぶつかった。その度に
恒星がぶつかりあうように空気が裂けた
その隙間から神の「復活」として産まれ堕ちた
その音とも呼べない哀しき鳴動が
見慣れていたすべての風景を破棄した

本日正午から、人口調査が行われる、と
二〇二〇年に侵略した火星のラジオが伝える
努力目標だと謳って
精神障がい者の「人権」を村八分する
そして疑心暗鬼の生活が始まった
自由はどこにだって行けない
窓側の席から動けない

港で猫が幸福ならば
何故、我々にそれができないのか

資本主義のその先を、海抜〇メートルの小国で、
少年少女が探している。
よせてはかえす波に消される思想を