佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

現代詩

孫をみつける

新大久保の路上を昼間から指を絡ませ歩いている 初夏の気持ち良い空に抜ける鳥の捩れる舌は 曹達割りの檸檬が半月となる薄汚い居酒屋の陰影で 細かに震えている中身は未だ少女のままかもしれない 娼婦はわざとらしく朱にまみれ覗く前歯の沁みで淫行へ導く 体…

抽象化

引き金は微弱な温度の変化で引かれた 意識を残したら生者ではいることができない 奪ったその反動の渦中で奪われていく巡りたち 針は進められるが 時間そのものをチクタクと産み出せはしない 後から決める人類史は簡単な人工物でしかなく ことわりのない権力…

広告費国庫負担

眩しいほどの熱気が上空で回戦を繰り返し 命を命でないものにして揚力を倍加する 空が自らを強姦し、もう同じ姿には戻れない 「歴史」は史実や体験とは別の媒体で 誰もが売り渡されてきた輸血の痕跡 それでも、私達は卓上に置かれてしまう 鵜呑みにして良い…

表決

「罪には罰を」と書き記した白票を投じ 鬱屈した温室で育った記憶のばらばらが 列車内で自らを噴霧した 自分の将来の右胸を貫く ジョーカー気取りの地を這う毒虫 握り潰された無名と知られたくなくて握った 刃渡り三十センチの柄を失った血みどろの鉾 陪審員…

独居

萎れた女を看取った朝日が、やけに眩しく感じる 人であろうとした最後の自由を叫ぶ痛みが 砂を被ったガラス戸を突き抜けて、皮膚を直接刺している 檸檬の棘が皮下から突き出すあの感覚 一月だというのに室内は暑く、額に大量の汗をかいている 指先から滴り落…

ジャーナリストの彼女が目の前で死んだ

それがどんな風に起こった出来事であるのか 詳細まで説明させようとするヘッド・シュリンカー 怪しい友人という名を被った執行人 「破裂」という言葉を使わないでくれ、と頼んでも 逃げていると背中に向かってなじる、蹴る、行儀人 私の目の前で彼女の眼球が…

今、この時に生きていることについて感じなければ、貴方は生きていけるのか?

現代史には仇が常に必要で その歴史的真実は翻訳ソフトを使用しても伝わらない 斬殺する側にも出血する無言が存在し 逆流するヘモグロビンが今でも 朝刊から溢れた情報をせっせと運んでいる もう止血剤の効かない心たちが、何人もの人を殺める 安息日の祈り…

仮説

昨日と今日の瀬戸際に唾をつけてめくる 無の涌く湖のように渇いた一ページ それが私の日々を模していく、贋作の日々 溺れずにいる魔法を失った物語の途上が 湖底に突き刺さり、わずかに湧き出てきた 名前のつけようもない同一性を掬う かつて、絶対的に守ら…

それでも、人間が好きだと

世界の底辺が、 フィクションになり、崩壊していく音を ただ聴いていた 震える耳で聴いていた 語彙をすべて質入れした氷河期時代の末裔は 音の出ない王冠を額にして 自分という幽閉先から一心に自分を鳴らしている 言霊が滅びていくことを知らせるため 淘汰…

WHO

特権となった情報だけを所有するヒエラルキーの現場で虚数に まみれた躰を起こし目覚める不穏な予言 支配者達は身の危険を感じ、己の手をはじめて見た #拡散希望、を収束することにかかっているその震え 天使の町からアノミーが降雪する 人は、自分の物語を…

性善説の裏側で

斬首された心の中心で死に場所を探していない日はない川の柳は流れない。炭化した瞳それは、とても、明らかに、殺人者のものだ自己の中で、低い鐘の音がする人の血を舐めたことのある、たぎる血 帰省してきた「息子」相手にとっくみあいこの世の仇を見つけた…

ラヴ

どうか笑い続けて どうか息をし続けて 君と家に帰るために 中古で買った、よく走る黄色いビートル 今があるという繰り返しは絶対ではなく 時代はいつだってゴーストかもしれなく けれど、この古いレコードで Let it beで 逝く前に振り返って 失うものを失わ…

目が沸騰している

外では、激しく憂鬱が降っている声を伴わない孤立をはらんで、窓辺をたたく壁紙は剥げ、黒い黴の臭いに満たされた部屋自分が自分とぶつぶつ話しているそうしていないと盗まれるのだ思考も、思想も、地獄でさえも彼はいよいよ四十歳をむかえてしまいもはや自…

天秤

母国語のような命綱が、切れそうな時死ぬほど苦しい、白黒の言葉を吐き出せちらつくテレビジョンを見る苦しい生活その白黒の言葉を吐き出せ手遅れを、手遅れにしないための方法論は、人の溜息を食すケモノに飲み込まれ、消えたサスペンスはない、人生のサス…

佇立する人

老いて忘れられていく、埋没という居場所狭くなっていく自分の行動縄張りは夏でも冬でも炬燵の中で床ずれができてしまうほど大量のワンカップで自らを失った 痛みはない乱れてもいない何度ナイフで樽を刺しても感受性は既に死んでおり黒ひげが飛び立つはずも…

開錠/施錠

言いたかった泣きながら言ってやりたかった何も言うことがないのに、震えながら沈黙を罵倒したかった大切な人がより一層大切になる時、私たちは初めて心から祈りを知った大切なものが、どれほど大切であるかを 噂がコンマ何秒で世界をつくり変えていく矛盾を…

極地にて

明日の朝がなければ今日が成立する論理はその意味を失うおわかりになりますか? 今日という概念はただの箱である、と透明な手が梱包しあちこちの支店を経由して家のドアを無益に叩く凍りついた私に届けられる警鐘の愛 それは心臓という名で一日に七〇〇〇リ…

新しい思想(加筆修正)

国民の義務だと謳って他人の紅い汗を舐めながら、働くことばかり強制され眠くなれば、二階から轡を点眼される前回休んだのは、いつ転生した時だろう?どの時代も一緒だったふたつ、みっつと死んだ数だけ影が増える 《スキャンダルに追われ、自分の放った矢に…

飛ばなかったイカロスに価値はあるか?

時間をかけ、にがい記憶を自分で沈黙させたのに、ふとした瞬間、ぱっくりとその縫い目は裂け、鮮血が再び弾ける焦がしてしまった自意識をおもわず飲み込んで一人、生き急ぐように演じてきた舞台の上で強迫的な幕がやっと下りる 擦過傷でも大なり小なりトラウ…

新しい思想

国民の義務だと謳って他人の紅い汗を舐めながら、働くことばかり強制され眠くなれば、二階から轡を点眼される前回休んだのは、いつ転生した時だろう?どの時代も一緒だったふたつ、みっつと死んだ数だけ影が増える 《スキャンダルに追われ、自分の放った矢に…

『嘘の天ぷら』佐々木貴子 詩集 感想

飼育 「僕は鬼を飼っていた」冒頭から、負の自分と対峙していく詩人の覚悟がある。「鬼」は三角みづ紀さんの「オウバアキル」にもあるが、佐々木貴子の鬼はもっと感情豊かだ。それは「鬼の成長が僕の唯一の楽しみだ」にも見られる。 詩の後半の畳みかけるよ…

パンデミック

中庸が失われていくという自覚はあるか? 原罪の開花に負けていく、まっさらな鳥が鳴く 警鐘は快楽を前に斬首され、帰らぬ人となった もはや、透明性のない神の手では 安眠できる場所を検索することはできない 聖櫃が埋まっているという、使い切った荒地を彷…

挿入歌

私は歳だけをとり、 眠れない自分の中へ 少年を幽閉した 月明りだけで伸びる身長 何の満足にもならない、 マスターベーションのくり返し 白昼夢の中に入って、逝ったお前の死は あまりにも響いた 走ることしかできなくなった鳥 心の傷というものは、 やすや…