佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

第一回よるもく舎■合評企画 佐々木漣『漂泊の虎』

〇よるもく相互合評会とは??

詩舎夜の目撃者(通称よるもく舎)で、詩を相互に発表しあう場を作ろうというもの。
毎回作品を相互に批評、感想を出して発表しちゃおうと勝手に考えた、魚野真美 詩舎 夜の目撃者」における企画です。今回は私の作品『漂泊の虎』です。

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漂泊の虎

佐々木漣

 

すっかり朽ちた森の中で、独り彷徨う
昨日の太陽はもう昇ってはこない
永遠のような冬、欠けた月
風が枝を切り、
剣山のような凍土が下から体温をつらぬく
探しても探しても、
勝者の痕跡は見つからない
戦い、敗れ、失った
火炎のような瞳を
金色の縄張りを
残ったのは骸のような私のみ
やがて夢を見るように目を瞑れば、
今でも思い出せる
繁栄の歳月
木々の囀り
星霜の証
大鹿との格闘
猛々しい獣へ
森が称賛の唄を唄っていた

彼らとともに、滅びることもできる
あるいはそれが幸福なのかもしれない
ここで得たものはすべて、結局、ここで失われるのだ
皆、寂滅と土へ還った

これからどうすべきだろう?
沈黙よりも重い空腹の重さ
いまさら漂泊ができるだろうか?
汚れた爪、牙も折れ、
すっかり老いさらばえた
縄張りの中でしか生きてこなかった私は
一匹のカワズと一緒ではないか

とても恐れている
知らないと知っていることがあまりに多すぎるから
信じる根拠など、何処にもありはしない
しかしそこに、可能性がある限り
私が虎であり、まだこの身の内に、その強さが、残っているのなら
取り戻そう
自分の誇りを
授かったこの体の均斉を
再び出逢うだろう困難の恵みを

月を見上げ、
それから歩み始める
新雪の上を、音もなく
ずっと

 

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魚野真美さんからの批評/感想頂きました。

こちら