佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

もしも死にたくなってしまったら

もしも死にたくなってしまったら、
僕を起こしにおいで。
深い夜や、盲のような霧の時、
サイレント映画について長いお話をしよう。
暖炉のある部屋で、掌で影を作って再現しよう。
短編小説家の、ひと時の寸劇。
誰も死なず、誰も損なわれない物語を、毛布のように君の肩に掛ける。
すぐには暖まらないかもしれない。
君を暖めるのは君自身の体温だから。
膝を抱えてごらん。
長く息を吸って、吐いて。
スペアミントを入れた熱いミルクを一口飲んでごらん。
サウンドトラックが必要なら、書棚を調べてみて。
少ないけれど、同じような思いがそこには込められているから。
オルガンと雪の降る音で作られた小節。
胸に手をあてて、そっと呼吸を合わせてみて。
もしできるなら、君の話も聞かせて欲しい。
昔の話だっていい。
あわい初恋や、初めて人を殴った時のこと。
痛みを覚えて、優しさを知った時のこと。
何だか作り話みたいだと、
大仰すぎやしないかと、
自嘲した君の微笑みは、
とても愛くるしい。
時計の針を気にしないで、
時間に意味を持たせることはないよ。
それはただの時間だし、
それ以上のものじゃないから。
夢や希望は瓦解したと君は言う。
ジェンガのようにあっさりと。
やり直しがきかないことだってある。
でも、やり直しちゃいけないわけじゃない。
たとえ死ぬ間際だとしても。
君がここに残していけるものは必ずある。
心の内に投影した、夢のシルエット。
彼らとのダンス。
次の日も、その次の日もそれは続いていく。