佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

気づかれないように、死なないように、幸福であるように

夜の横断歩道を駆けて渡る

声を出す間もなく視界から消えた猫の様な手

ありふれたアスファルトが、トリミングされ

大手を振ってやってくる一人分の空白

右折する車に巻き込まれないよう

エアバッグを備えるべきは、

歩行者の方なのかもしれない

 

罵るのはいつも広げすぎた自由の方で

曲がりきれないカーブで横転した

森の中に逃亡した何者でもない顔の集合体

そこに祈る相手などいないだろう

懺悔にも圏外がある

若い男が青白い言い訳を持って出頭した

死にきれなかった、と大抵は言う

 

怒りがないかと問われれば、

傷だらけの嘘になる

淋しくないかと訊かれたら、

宙に浮いたままになる

死なないように、笑ってきた

ずっとずっと笑ってきた

原罪のネガを持ち歩く私は、

氷山の一角だ

被告人が立ち上がる

判決が言い渡される

沈黙が私を通り抜けた

 

《他人は諦めて前を見ろというが、

なぜ俯いて歩いてはいけないのか?

獰猛さを知らず、刮目した事もない正義》

 

裁判所で捨て鉢を拾った

朝と夜と昼と夢とを、破り捨てた場所で、

私だけの原理がざわつく

安寧とともに私も、

犯罪者になりたい

 

死んだ魚の目を土にして

美しく艶やかに、花が咲くことを信じる

誰でも嬉しいだろう運命と溺れ死ぬことは

気づかれないように、

死なないように、

幸福であるように、

私はこの仕事の準備をする

誠よ、君が存命なら

化け文字の法律など知らずにすんだろう

 

今宵、捨て鉢で育てたナイフを懐に忍ばせ

新月を見上げてそっと宣戦布告する

やって来た粛清の波

足首から誘う土用の波

中身のない主役はもう終わりだ

さあ、神様ごっこを始めようじゃないか

あの子の好きだった、

かごめの唄を唄って