佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

飛ばなかったイカロスに価値はあるか?

時間をかけ、
にがい記憶を自分で沈黙させたのに、
ふとした瞬間、
ぱっくりとその縫い目は裂け、
鮮血が再び弾ける
焦がしてしまった自意識をおもわず飲み込んで
一人、生き急ぐように演じてきた
舞台の上で強迫的な幕がやっと下りる

擦過傷でも大なり小なり
トラウマを抱えている
そうやって生きてくしかない人
隠しながら生きてきた人
生存者の数より
死者の数が誉れ高い弾幕
密林の中に落とした、
人が勲章になる姿を表現する言葉は
まだ見つかっていない

壁に並ばせて、
メロディーのように一斉に射殺しても
その穴から
二一グラムの煙幕が立ち上り
明日も同じことが繰り返される
人の崖からぬっと伸びる、手
何処でもない場所へ、引きずり込もうとする
死の手わたし

そうやって青春を謳歌したのか?
祖父は歩兵として戦争へ行った
押し黙って、目の奥が黄疸で死んでいる
慕情など入る隙間もない景色しか見えない

いつもどこかで苛立っていた
戦闘機のプラモデルを無邪気につくる私を
思い切り打擲した。
そして、自ら納屋に入り
鍵を閉めろと怒鳴る

《飛ばなかったイカロスに価値はあるか?》

写真の裏に書かれた告白
あまりにも長かった
もう、祖父の戦いを暗幕で終わらせてやってください
ずっと背負っていた蝋の羽根を溶かし
鎮魂として白い涙が永遠に零れますように