佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

目が沸騰している

外では、激しく憂鬱が降っている
声を伴わない孤立をはらんで、窓辺をたたく
壁紙は剥げ、黒い黴の臭いに満たされた部屋
自分が自分とぶつぶつ話している
そうしていないと盗まれるのだ
思考も、思想も、地獄でさえも
彼はいよいよ四十歳をむかえてしまい
もはや自分の名前すら書けず
自作のパソコンに向かってキーボードを弾くことが
蜘蛛の巣に囚われた、彼の発する「声」なのだ

毎日、何らかの督促状が届き
彼は鍋で煮て、それを食べる
もう、自我を保つ家賃は払えず
少しずつ沈没していくほかなく
既に、カーテンの向こうはこの世じゃない
無限に更新されるもうひとつの世界だ
内省が内側から鍵をかけた
清算された、完全なる逃避への片道切符
自分で自分を演じてきた虚構に、自由を与える

《幸福を感じたことがない、ICUの私》

彼はカワイソウなのか?
みんなのニュースは、凄惨なカワイソウが好きなのか?
それなら今すぐ悲劇のドアを叩きに行け
彼を肯定しに行け
無事では帰ってこられないという覚悟で
貴方は自分の手で、他人を救いに行けますか?
嫌気がさす、と本当は知っている
誰もこんな「救済」へなど参加したくない
こちら側にある正しさで、扉の息はこときれた

ああ、目が沸騰している
彼の目が、沸騰している

涙腺でボイルされた蟲が
巨大化し、ベッドで跳ねている
エビぞりになって弾け、何匹も自殺していく
滴る、黄土色をした死の死骸
貴方のすぐ隣にも在る自意識の末期

今夜も、誰かの声なき悲鳴が聞こえないだろうか?
最後に発した、首が脱臼する音に似た、あの声が
どうか、耳を澄ましてください