佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

佇立する人

老いて忘れられていく、
埋没という居場所
狭くなっていく自分の行動
縄張りは夏でも冬でも
炬燵の中で
床ずれができてしまうほど
大量のワンカップで自らを失った

痛みはない
乱れてもいない
何度ナイフで樽を刺しても
感受性は既に死んでおり
黒ひげが飛び立つはずもない

故郷へ帰るのか? その身体で
家族は粛清されたというのに
こころが老いたあなた
時に人は自分で死なねばならないほど
生きねばならない時がある
そんな姿や形が、確かに必要なのだ
美しくもない、正しくもない
中性の優しさが消える
何時だって後悔が、揺れている

あなたの故郷では壊れた北風が吹くだろうか
凍てつく黒い壁をよじ登っては落ち
登っては落ち
あの浜へ辿り着いたときに思うだろう
自分にもまだ感情があったということを
消えたはずの楽園
放棄された美しい国

飛んでいる光に触れると
焦げてしまう
遠くで野犬が吠えている
まるで、あの地震の直前のように
かつて当たり前にポケットに入っていた
軽かったうわごとは
あまりにも重く実現してしまった
何故、林檎を齧った?
あの獰猛な塊がある限り
人の種子は芽吹かないだろう

佇立したままの老人
波がくるぶしを連れていく
「ほら、あそこで妻が、溺れている。
行かなくては」