佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

抽象化

引き金は微弱な温度の変化で引かれた

意識を残したら生者ではいることができない

奪ったその反動の渦中で奪われていく巡りたち

針は進められるが

時間そのものをチクタクと産み出せはしない

後から決める人類史は簡単な人工物でしかなく

ことわりのない権力のアンソロジーにすぎない

まばゆい光であろうとする太陽と名乗りたい者は

月光を知らないまま

引力の魅力を知りたがらないまま

食前酒に滅ぼした町の名を冠して愉しむ

 

潮時に多くの命が曳かれていく

空所に引っ張られていく音の群れが

ほのかに甘かった性を生として老い果てる

激しい肉体の音源を辿れば何度も所在不明になり

産まれたその瞬間から世界との通信は過去形で

協調することで絶滅を逃れてきた

しかし越境した先々で

わかり得たのは潤沢な破壊と

害をなしている鑑と

飛躍したがる科学の利用

賭して空転する天蓋の危機だけが問題な今

誤魔化しの算段が

日々の暮らしにまみれている

変化そのものの中にいすぎると

気付きようがない事実が徐々に沸騰する

我々は井戸で茹でられていく蛙(かわず)でよいのか?

 

神の戸籍は抹消され、地上はもう浮かばない楽園

黒雲が核を耕し絶叫の金銀がさんざめく

祈りが命を断っています。どうしますか?

慈愛が自己弁護しています。どうしますか?

正義の母数だけが増加の一途を辿り

狂い咲きが普遍へと移行していく

溜息を漏らす寸暇もなく蒸発していく紺碧の七海

あらゆる真夏に後日が訪れようとしている

 

理解する間もなく数字は冷酷に告げる

語り部の声に張りはなく

伝承の壁画は皹だらけで継承されず

スコールで嗄れた尺度が海抜を測るばかり

 

父母が

祖父母が

黙していく砂塵の実る森で

墓標のように陳列されているのは

褪せた空き缶であり、国籍のないペットボトル

虫が鳴く秋の日角さえもが人質の仲間入りとなる

 

屍の荒野を燻して回転している星がここにある

降らない雨空に虹が架かる

それは生活の狭間で顔を出す奇跡ですらない望み

かつては七色の色彩を持ったという

あなたには何色に見えるだろうか?

その中に戻るため

みなが同じ虹彩に戻るために

私は悪魔と旅に出るべきだろうか?

選択の余地はないのだが

未だに足は選ぼうとしないのだ

さざ波を静かにしながら幕張の浜辺に座る夕暮れ