佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

天秤

母国語のような命綱が、切れそうな時
死ぬほど苦しい、白黒の言葉を吐き出せ
ちらつくテレビジョンを見る苦しい生活
その白黒の言葉を吐き出せ
手遅れを、手遅れにしないための方法論は、
人の溜息を食すケモノに飲み込まれ、消えた
サスペンスはない、人生のサスペンデッド
「明日も今日が続くのか」という、
汚染された絶望感が、黒々とアスファルトに染みて、
大量のマジックリンでも、こそぎ落とせない

むせ返る黒い球体となった蠅の群れが、
生き物の内臓まで侵食する不毛の土地
聖書の一節に挿入すべき厄災は、我々自身か?
殺虫剤で殺されていく、アフォリズムの群れ
文明が信仰を飛び越えた
道のりは、もう人間の閾を出たのか?

あの場所に向かい、石棺をつくるため
投票で選ばれた教師が、
大きな背中を背負って出発した
確かではない事柄は、
不確かな人間の感触にゆだねられた
今、ここで、命は道具でしかない
祈る家族に幸福は訪れない
満天の星空を見上げ、
いくつもの十字架をチョークで繋ぐ
ただ家族を想い、
子どもを守りたいと願っているだけの殉死
一瞬だけ空を焼く流れ星に願ったものは何か?

天秤の上に落ちた淋しさは、どの民族と等価か
おもちゃのように壊れた人間性は誰の涙と等価か

肺を絞め殺す痛み。褐色の雪が降る。
それは詩、し、私、現代の死。
今日、白いチョークを握った手だけが帰ってきた
それだけがやけに、真新しかった

額の広い科学者が、その手を買いたいと言う
金と秤にかけて、人の不幸を買いたいと言う
妻は何を売ったのだろう?
朝から躊躇いをジンに混ぜて飲みほした
絆の破戒、という名の酒を飲みほした

神は死んだのだから、
もうその天秤を使うのはやめろ
人間よ、お前は神ではないのだから
死へ向かう路銀を量ることは誰にもできない