佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

仮説

昨日と今日の瀬戸際に唾をつけてめくる

無の涌く湖のように渇いた一ページ

それが私の日々を模していく、贋作の日々

溺れずにいる魔法を失った物語の途上が

湖底に突き刺さり、わずかに湧き出てきた

名前のつけようもない同一性を掬う

かつて、絶対的に守られている自由を求めた

初めて酔ったシュプレヒコール

蒼穹の夜を、薫風が爽やかに首をふりながら群生していた

 

ある日、裏切りを見た。くっきりと見てしまった

あれはいくらで売られているのか、

貴方は知っていますか?

あれは美しい無料コンテンツです

反射的に悪寒をすべて吐き出し、

自分の墓を楔のように脊髄に打ちつける

そんな類の美食家です

三食、否定でしかできていない捨てられた教義を喰らい

ほんの少しだけ目覚める理性の音を胡桃のように砕く。奥歯で。

聞きたい。騙されている人が真実だと語っている

間抜けなお話を

私にとっての最良の絵本を読みたい

 

どん、と山が捻じれた。誰かのいなくなる音

私は善意のふざけた音の中にそれを聴いたのだろう

夢破れたと知って聴いたのだろう

少しは痛いと思ったか?

私は大声で笑った

偽の書物を配る主人のように、笑った

私の中の、恩寵のクラゲが一匹、確実に死んだ

 

後ろ足で蹴ったはずの過去が、次のページにある日記

贋作生活はいつだって不安定であるから、

いつも素晴らしく最低でいられる

貴方だって気持ちの良い思いがしたいのだろ?

キメて弄びたいのだろ? 他人を、純潔を

腹の底を破壊して産み出させたいのだ、

自分の中を跋扈する仮説を

 

白痴の用水路から、どろりと黒い絵の具が流れてくる

石油が着火するように宿命が燃え出し、目覚めるならば、

生が永遠を愚弄するには都合がよい

自分の中身は反乱のように獰猛でいなければ、

望むようには生きていけないのだから

 

今、仮説は貴方の手の中にある

それをどう使うか、私には見ものである

それでも、人間が好きだと

世界の底辺が、

フィクションになり、崩壊していく音を

ただ聴いていた

震える耳で聴いていた

 

語彙をすべて質入れした氷河期時代の末裔は

音の出ない王冠を額にして

自分という幽閉先から一心に自分を鳴らしている

言霊が滅びていくことを知らせるため

 

淘汰されるべきものがあるという事実

これから起きうる不透明な百年は孤独ではない

大きくしすぎた社会の、できたての骸たちの山

白骨化したアラームがキチガイのごとく鳴いている

さあ、また後悔の時間だ

腐りかけた血や肉が踊っている終焉の祝祭

 

《最初の場所へ貴方は戻れ

 もう、救済のドームは焼け落ちた

 風よりも、コンマ一秒早く走る悪い噂

 遠くまで聞こえてしまう砂漠化する悲鳴

 誰もが他人のせいにして、

 営みを、簡単に無視できてしまう》

 

難聴の王様が、また何処かに落ちる

あらゆるバベルの塔に。

もう再び帰ることのできない

悪魔と伴に旅をした場所

実在はどのように造られた彫像の悲劇より残酷なのだ

せっせと焼身自殺者を生産している国

ほら、遠くから見るときれいだろ

放たれたまがい物の宗教の津波にもまれ

日々が逝く

 

それでも、

人間が好きだ、と産まれてきていいですか?

汚れたトイレにキスをすることから始める

鼻が潰れそうなアンビションの穢れが付着している

ぬめっとした舌触りが妙に美味しい、誰かが捨てた命

 

底辺から、世界が荒野へ変わっていくのを

王冠をはずした、ただの人として

聴いている

ひっそりと、ただ、ずっと

WHO

特権となった情報だけを所有するヒエラルキーの現場で虚数

まみれた躰を起こし目覚める不穏な予言

 

支配者達は身の危険を感じ、己の手をはじめて見た

拡散希望、を収束することにかかっているその震え

天使の町からアノミーが降雪する

人は、自分の物語を隠しはじめる

 

生きている眼が、幻視だった目と交換される

様々な方法で世界中に放擲される墓あらしとして

眠りについて久しい、あの作家たちを起こしに行くのだ

没落しない楽観主義者の頸部を、掻き切る役目を

書き忘れたままになっているから、と

 

何度目かの歴史的集合体が花開いた

その実がなす本当の役割を、貧困が割った

病だらけの情報の洪水。それは新たな普遍性の、

最初の空欄をなすのだろう

予定調和の動画を内部に移植して、

他人の有した右肩上がりの幻想を、

もがき滑り落ちていく甘い単語の群れ

 

「幸運を」と言って去る最後の援助隊が

二週間食べていない子の細い手首を縛り、犯した

届かなかった500カロリーを口に捻じ込むため

忌々しく作られた偽善の輪

偽物となった情報だけがリークする真実を、

信じる勇気の行方を、貴方は気にならないか?

虚飾にまみれた怒りを起こし目覚める本当のこと

隠れている者。名を名乗れ

 

天使の国から暗黙の日が焔となって降ってくる

世界の不都合な物語が焼かれていく物語

そこから出て行かなければならない

この矛盾した生命の純朴さを握りしめて

 

さあ、黄昏の楽しみがはじまる。狩りに出かけよう

我々はまたはじめるつもりなのだ

飢餓という、それぞれに平等な分配を

この不純物だらけの星で

もう、恒星になったこの星で

性善説の裏側で

斬首された心の中心で
死に場所を探していない日はない
川の柳は流れない。炭化した瞳
それは、とても、明らかに、殺人者のものだ
自己の中で、低い鐘の音がする
人の血を舐めたことのある、たぎる血

帰省してきた「息子」相手にとっくみあい
この世の仇を見つけたとばかりに
何度も脇腹を刺す
茨の性欲のように刺す
死体が蘇えるほどに刺す
水道の蛇口から出る真っ赤な水の源流
世の中はそのように潤っている

「私は暴力を認めない日は一日としてない」

「鋭利」が性善説の裏側で次々と懐妊していく
産まれてきたくなかった、と
おぎゃあおぎゃあと泣いている
それは漆黒に輝くライフルの弾丸
母親の頭を撃ち抜く鬱の弾丸

大罪が凝固した地面を
這いつくばっているだけなのに
大雨がすべて水に流してくれると言うのに
我々はその警鐘を無視して
高度を上げ
速度を増すことだけにしか、興味がない
自分の森を焼き尽くし、それを虐殺に利用した
絶滅寸前の膂力が、何かを望んでいる視力を持つ
何処でなされているのか、その善は

斬首された心の中心から溢れ出るのは
自傷行為をしている世界そのもの
呼吸ができないほど
あまりにも濁っている
時代そのもの
貴方はそれを飲むのか?

メフィストフェレスの自殺

老婆を叩き潰したその内省は解脱した

 

見開いた、

壊れた瞳孔で見たのだろう

彼だけの真実を

彼だけの前を通り過ぎた

せむしの様なメフィストフェレスの姿を

 

現代でも惨劇は、

慈悲や救済という名に匿われ

壊れた人の上を白昼堂々歩いている

善人が悪人になるのはもはや自明の理で

修辞がこんなにも無味乾燥している

 

今、メフィストフェレスは待っている

街路樹の古い切り株のようにじっと

何を?

清く輝くこと、ではない

箝口令のしかれた暗闇、でもない

どこかを彷徨っている混沌を

彼はそこでしか安息を得ることができない

疲れたと言っても有給休暇はなく、

次から次へと

どこの馬の骨だかわからない人間の後を、

ついて回らなければならない

もう、疲れた

一人では身が持たないこの頃の、

分かち合えない事件事故に

こんな魂のないご時世に

 

パンドラの箱を開けたのはどこのどいつだ

同情をかいたかったこの俺か

後悔は先に立たないから沈んでいく

「生きにくい社会」と誰よりも叫びたい

打算が空を飛んでいる

彼らがはじけ、黒い雨はきっと降るだろう

奇形が隔離される列島

奇声をあげ続ける理想郷の赤、青、黄色

 

望んだ混沌が訪れた

その中で融解する「」

盗んだ希望も一緒に

即興死す

 枯れ果てた早朝の空気の中。過呼吸の怒りに頼って、アンガーのハンマーで叩き潰そうとした貴方の目が止めた、「私」という肥大した主語の塊。毎晩、射精した血で黒すぎる経血のような精液の残り香が貴方に生を贈っていた。晩冬の風が寄せて引く波を夜の港に降ろす怒りを錆びだらけの鉄の錨に交換した。沈んでいく無駄な即興死の群れ。バイバイ、GO BY。貴方の好んだうしおは血の味しか含んでないこと、そのことがまことの意味性のありようで、時ばかり渦巻くだけで、尖ってはならない。貴方は毎晩、稲妻の驕るしじまに落ちることを恐れていた。気圧で一人、ただ狂うことさえ捨てなければならず、きっかり、午前一時から始まる発作は海底の砂を握るより無駄なのか? 私は腹を刺し、斬首したい沢山の文字を堆積してきたはずなのに、刮目した目に書かれた遺書を何通も宛先なく送る分裂する貴方の自己愛が作ったはずのものの影を、いつも薄くて触れないでいた。間に合わない! 肉体の痛みが逃げないように、麻薬で必死に手錠する。

 死亡診断書は家庭の国境を消して消え、着信音が着地する場所を忘れていくガラケー。どのようにカルテを整理しようと最期はデジタル化できないのだから、焼きすぎた思ったより太い骨に、看取った喪失感に、最期の青い花束を持たせよう。私は生の後悔を何度も買った。鋏を入れたクレジットカードで。不死は死そのものであるから年は誰でもとりたくはなく、壮年という発音だけで壮年が砂利のように埋め立てられていく医学用語の出る港。嫌っていた大きすぎるSHIPの切符をもいで処理したはずなのに、未だ死にきれない映像は重い煙として、十三階から飛び降りたギリギリの理性。残された。それは自殺者のように今もって進捗している。どこかで再会するのか? 失った名を辺土のような病として、貴方だけのものにした貴方と。腐った林檎を齧り、私の妄想の膨張には終わりがない。「俺」という虐殺は「私」として活版印刷のように細胞を日々破滅させていき、頭痛しか起こさない厄介者の赤い海水を点滴しようか。貴方が溺れていたバッカスの水。そこを私も泳ごうか。

 自分で釣った魚の命を鋭い包丁でさばきながらも、背後から迫りくる暮らしていけない真実が、先に潰れた生活を黒い墨で追い詰める。明かされた残りものの少なさ。足りない全ての生理反応の、業の密室的愉快さをわかってもらえない異人として暴露していた、しらじらとした天井は、何故崩れなかったのだろう?

 さあ、今こそ発光させよう。午前九時に逝くまでの自分をかけた発光ダイオードとしての最期のサインとして。私は貴方が息を引き取る時にたった一度だけ交通整理をした。この唇と両手の圧力で。切れた「息」とその「子」の為に。ありがとう。激痛の走る心臓、確かに貰いました。命は大切ではないと知り、即興がただこの時を持って、死んだのです。

ラヴ

どうか笑い続けて

どうか息をし続けて

君と家に帰るために

中古で買った、よく走る黄色いビートル

 

今があるという繰り返しは絶対ではなく

時代はいつだってゴーストかもしれなく

けれど、この古いレコードで

Let it beで

逝く前に振り返って

失うものを失わないように

ときどき、記憶を抱きしめるから

ときどき、幻覚として抱きしめるから

 

あの日光の下で、そよ風を知り

父親にしてくれた腕の中の体温を、知った

それが二人の仕事だった

語彙の量など必要としない

ただ、わかること

何ひとつ遠慮はいらない

僕は強くつかむ

直喩でも隠喩でもないぬくもりを

ポケットに入っている記録の確かさに託して

花にして、種にした

 

飛ばされていく綿毛

風、風、風

聴こえてくる歌

振り返らずとも僕を前におしやろうとする

現実を現実で切り開いて

真っ白いかまいたちで切断された

正確ではなくなった花時計の秒針の山

刻まれなくなった時間の錆

 

何処にいるのか、もうわからない僕に

降り注ぐ雨に似た涙の結晶

それを、どのようなことをしてでも

「意味」として守り抜こうと

4B病棟のトイレの鏡に誓った

何処でもない僕の自意識の中心で

守り抜こうと誓った

日蝕のように、やがて悲しみを忘れ、

君に出した返信が宛名不明で戻ろうとも