佐々木漣 ブログ 漣の残響

闇の中に詩を投げろ

ジャーナリストの彼女が目の前で死んだ

それがどんな風に起こった出来事であるのか

詳細まで説明させようとするヘッド・シュリンカー

怪しい友人という名を被った執行人

「破裂」という言葉を使わないでくれ、と頼んでも

逃げていると背中に向かってなじる、蹴る、行儀人

私の目の前で彼女の眼球が虚空に飛び出し、

もげた頭が別れの口づけをし、私の手の中へ落ちた

あの花束だらけの結婚式でした誓いのように

銃口を頭にあてがわれながら永遠をもう一度、誓う私

本当の狭間で――。夜を見上げても美しい星はもうない

 

この世界で起きている終幕はそんな風に始まっていると、

誰が伝えられる? 毎日、古代アラム語

まともな震えない勝利があると信じる源泉は、

何処から至り得る答えか三十秒以内に述べよ

 

殺すような祈りなのか、救うような憎悪なのか

今、激戦地こそが感覚的には一番健全で

都市部のビル街の方がよほど人間性に対し脆弱である

いつもメールの最後に書かれていたのは

恐怖だった、のだと今更ながら知る、この文明の遅さ

私は肉親だったのか、他人だったのか 

不確かさが煽る恐怖は、時に自分をも騙すし、

他人を笑わせる情報操作にもなる

 

両翼のない飛行機にたくさんの安楽死を詰め込んで

共にあった人の命は何度も起き上がろうとするが、

戦地で増えていく一方の爆心地の群生に

消えていく、黙認のスペクター

(誰にも、砦なんかになって欲しくなかった)

 

一生を懸け私は負い目というロケット弾に追い回される

民間人が派手に四散した方が統計として自死とされ、

ヘッドラインの威力があると視聴者の了解がより存続し、

写真機が生々しく光る噴煙の中で、

意志を煙幕で窒息させるあらゆる寄せ集めの正義たちを

頷かせる。ケネディーの演説よりも。

 

私は彼女の脳を拾った

そして、食べた

何の感触も感慨もないまま

二人で食べた、紅海のカラスミの味だけがした

そのようにして彼女のかけらをすべて腹に収め

埋葬としたのだ。強く焼け焦げた太陽の下

未だに、彼女がその網膜で写しとった光景を見られない

それは罪であってなんだろう?

 

無人機が「視覚」した夜半の住宅街で樹木が揺れている

今朝も半分以下になった子どもが数人、見つかった

その枝に、べっとりと絡んで

もう教育の必要はない、と何処かの大人は喜びさえし、

自立なんて望まれていなかったのだと悲しい空腹が知る

二十年と言うかりそめの成人式が航空ショーを行い

これからは自分たちの命は自分たちで

私たちが投下した多様性はあなたたちで

自己責任という名において、粛々と犠牲を偽善に換言し

墓穴の数だけ増やしていく

 

秋。鳥が勝手に他人の空を飛び去って、逝った

それが何を意味しているのか、砂嵐が鳴くたび

不明確になっていく記事の改行すべき場所

行列だけは作られているが、

その先に預言者などいないことは知らされず

デマゴーグのチラシがまことしやかに掲示され

「ジェノサイド」と叫ぶ奇人がよろよろ歩いている

もう、不問や赦しの架け橋は人の汚染に流されていった

自分を組成していたものによって、物事がなされていく

スマートフォンが叫んでいるが、繋がらない

母親であった誰かが叫んでいるが、繋がらない

一人、頼りにしていた少女の手は

血だらけで発話することができず

混乱から目覚めれば、暗殺者として次の血に飢えるのだ

ただ、ひたすらと「事」が、再燃していく

どんな都でも

今、この時に生きていることについて感じなければ、貴方は生きていけるのか?

現代史には仇が常に必要で

その歴史的真実は翻訳ソフトを使用しても伝わらない

斬殺する側にも出血する無言が存在し

逆流するヘモグロビンが今でも

朝刊から溢れた情報をせっせと運んでいる

もう止血剤の効かない心たちが、何人もの人を殺める

安息日の祈りはすべて戦慄に塗り替えられ

「時代だと」わからないことがわからないまま

高速化していく駄言が促す、脳細胞の破壊

姿見の中へ向かう救急車に搬送され

いくつものプラスチックの手で、時に助けられ

時に諦められる、感情を排し無気力になっていく命の現場

そこにいるのは誰なのか? 答えられる者はいない

どのような青写真も立てられなくなってしまった

生々しい、何センチにもわたる傷の写真が

ばらばらと、散らばっているばかりだ

もう血と油が等価であることを許すべきではない

 

死海に浸された人工の楽園で

幸福と不幸が結婚をしたら、「感じる者」が産まれた

既に開花した白い薔薇をその手に

各々の地上を丁寧に配布したつもりだった

裁きの場は人の上にも下にも座していない

ただ、私たちから意図的に逃げているだけなのか?

快楽にうぬぼれた大量殺戮の事実は次々と焼き払われ

針の汚れた注射器で作り出したサイコパスが投じられ

生を謳うか、喪に服すか

壊れた色のまま当選しようとする

名もなき復讐という名を冠した選民のざわざわ

 

仇こそ生かさねばならない。生きねばならない

殺し続ける理由を、心に、

生きる種火として燃やし続けるため

愛よりも憎悪がつき走りながら「無敵」になっていく動悸

日常の指針は死に悶え、温度はどの法学を支持するのか?

不安がこんなにも飛び火しているというのに

誰一人気付かない劣等感の充満する空気の中で

窒息は、やむを得ない事実となる

白色矮星のような双眸。貴様は何を見たかった?

 

「感じる者」が、冷たい水の中から一人這い出てきて

心というものを初めて痛めている

生きるすべての者を疑ってしまうことを

深く青すぎる空によって救いすぎてしまうことを

自らの矛盾によって、自らのユダを裏切ってしまうことを

 

今、この時に生きていることについて感じなければ、貴方は生きていけるのか?

仮説

昨日と今日の瀬戸際に唾をつけてめくる

無の涌く湖のように渇いた一ページ

それが私の日々を模していく、贋作の日々

溺れずにいる魔法を失った物語の途上が

湖底に突き刺さり、わずかに湧き出てきた

名前のつけようもない同一性を掬う

かつて、絶対的に守られている自由を求めた

初めて酔ったシュプレヒコール

蒼穹の夜を、薫風が爽やかに首をふりながら群生していた

 

ある日、裏切りを見た。くっきりと見てしまった

あれはいくらで売られているのか、

貴方は知っていますか?

あれは美しい無料コンテンツです

反射的に悪寒をすべて吐き出し、

自分の墓を楔のように脊髄に打ちつける

そんな類の美食家です

三食、否定でしかできていない捨てられた教義を喰らい

ほんの少しだけ目覚める理性の音を胡桃のように砕く。奥歯で。

聞きたい。騙されている人が真実だと語っている

間抜けなお話を

私にとっての最良の絵本を読みたい

 

どん、と山が捻じれた。誰かのいなくなる音

私は善意のふざけた音の中にそれを聴いたのだろう

夢破れたと知って聴いたのだろう

少しは痛いと思ったか?

私は大声で笑った

偽の書物を配る主人のように、笑った

私の中の、恩寵のクラゲが一匹、確実に死んだ

 

後ろ足で蹴ったはずの過去が、次のページにある日記

贋作生活はいつだって不安定であるから、

いつも素晴らしく最低でいられる

貴方だって気持ちの良い思いがしたいのだろ?

キメて弄びたいのだろ? 他人を、純潔を

腹の底を破壊して産み出させたいのだ、

自分の中を跋扈する仮説を

 

白痴の用水路から、どろりと黒い絵の具が流れてくる

石油が着火するように宿命が燃え出し、目覚めるならば、

生が永遠を愚弄するには都合がよい

自分の中身は反乱のように獰猛でいなければ、

望むようには生きていけないのだから

 

今、仮説は貴方の手の中にある

それをどう使うか、私には見ものである

それでも、人間が好きだと

世界の底辺が、

フィクションになり、崩壊していく音を

ただ聴いていた

震える耳で聴いていた

 

語彙をすべて質入れした氷河期時代の末裔は

音の出ない王冠を額にして

自分という幽閉先から一心に自分を鳴らしている

言霊が滅びていくことを知らせるため

 

淘汰されるべきものがあるという事実

これから起きうる不透明な百年は孤独ではない

大きくしすぎた社会の、できたての骸たちの山

白骨化したアラームがキチガイのごとく鳴いている

さあ、また後悔の時間だ

腐りかけた血や肉が踊っている終焉の祝祭

 

《最初の場所へ貴方は戻れ

 もう、救済のドームは焼け落ちた

 風よりも、コンマ一秒早く走る悪い噂

 遠くまで聞こえてしまう砂漠化する悲鳴

 誰もが他人のせいにして、

 営みを、簡単に無視できてしまう》

 

難聴の王様が、また何処かに落ちる

あらゆるバベルの塔に。

もう再び帰ることのできない

悪魔と伴に旅をした場所

実在はどのように造られた彫像の悲劇より残酷なのだ

せっせと焼身自殺者を生産している国

ほら、遠くから見るときれいだろ

放たれたまがい物の宗教の津波にもまれ

日々が逝く

 

それでも、

人間が好きだ、と産まれてきていいですか?

汚れたトイレにキスをすることから始める

鼻が潰れそうなアンビションの穢れが付着している

ぬめっとした舌触りが妙に美味しい、誰かが捨てた命

 

底辺から、世界が荒野へ変わっていくのを

王冠をはずした、ただの人として

聴いている

ひっそりと、ただ、ずっと

WHO

特権となった情報だけを所有するヒエラルキーの現場で虚数

まみれた躰を起こし目覚める不穏な予言

 

支配者達は身の危険を感じ、己の手をはじめて見た

拡散希望、を収束することにかかっているその震え

天使の町からアノミーが降雪する

人は、自分の物語を隠しはじめる

 

生きている眼が、幻視だった目と交換される

様々な方法で世界中に放擲される墓あらしとして

眠りについて久しい、あの作家たちを起こしに行くのだ

没落しない楽観主義者の頸部を、掻き切る役目を

書き忘れたままになっているから、と

 

何度目かの歴史的集合体が花開いた

その実がなす本当の役割を、貧困が割った

病だらけの情報の洪水。それは新たな普遍性の、

最初の空欄をなすのだろう

予定調和の動画を内部に移植して、

他人の有した右肩上がりの幻想を、

もがき滑り落ちていく甘い単語の群れ

 

「幸運を」と言って去る最後の援助隊が

二週間食べていない子の細い手首を縛り、犯した

届かなかった500カロリーを口に捻じ込むため

忌々しく作られた偽善の輪

偽物となった情報だけがリークする真実を、

信じる勇気の行方を、貴方は気にならないか?

虚飾にまみれた怒りを起こし目覚める本当のこと

隠れている者。名を名乗れ

 

天使の国から暗黙の日が焔となって降ってくる

世界の不都合な物語が焼かれていく物語

そこから出て行かなければならない

この矛盾した生命の純朴さを握りしめて

 

さあ、黄昏の楽しみがはじまる。狩りに出かけよう

我々はまたはじめるつもりなのだ

飢餓という、それぞれに平等な分配を

この不純物だらけの星で

もう、恒星になったこの星で

性善説の裏側で

斬首された心の中心で
死に場所を探していない日はない
川の柳は流れない。炭化した瞳
それは、とても、明らかに、殺人者のものだ
自己の中で、低い鐘の音がする
人の血を舐めたことのある、たぎる血

帰省してきた「息子」相手にとっくみあい
この世の仇を見つけたとばかりに
何度も脇腹を刺す
茨の性欲のように刺す
死体が蘇えるほどに刺す
水道の蛇口から出る真っ赤な水の源流
世の中はそのように潤っている

「私は暴力を認めない日は一日としてない」

「鋭利」が性善説の裏側で次々と懐妊していく
産まれてきたくなかった、と
おぎゃあおぎゃあと泣いている
それは漆黒に輝くライフルの弾丸
母親の頭を撃ち抜く鬱の弾丸

大罪が凝固した地面を
這いつくばっているだけなのに
大雨がすべて水に流してくれると言うのに
我々はその警鐘を無視して
高度を上げ
速度を増すことだけにしか、興味がない
自分の森を焼き尽くし、それを虐殺に利用した
絶滅寸前の膂力が、何かを望んでいる視力を持つ
何処でなされているのか、その善は

斬首された心の中心から溢れ出るのは
自傷行為をしている世界そのもの
呼吸ができないほど
あまりにも濁っている
時代そのもの
貴方はそれを飲むのか?

メフィストフェレスの自殺

老婆を叩き潰したその内省は解脱した

 

見開いた、

壊れた瞳孔で見たのだろう

彼だけの真実を

彼だけの前を通り過ぎた

せむしの様なメフィストフェレスの姿を

 

現代でも惨劇は、

慈悲や救済という名に匿われ

壊れた人の上を白昼堂々歩いている

善人が悪人になるのはもはや自明の理で

修辞がこんなにも無味乾燥している

 

今、メフィストフェレスは待っている

街路樹の古い切り株のようにじっと

何を?

清く輝くこと、ではない

箝口令のしかれた暗闇、でもない

どこかを彷徨っている混沌を

彼はそこでしか安息を得ることができない

疲れたと言っても有給休暇はなく、

次から次へと

どこの馬の骨だかわからない人間の後を、

ついて回らなければならない

もう、疲れた

一人では身が持たないこの頃の、

分かち合えない事件事故に

こんな魂のないご時世に

 

パンドラの箱を開けたのはどこのどいつだ

同情をかいたかったこの俺か

後悔は先に立たないから沈んでいく

「生きにくい社会」と誰よりも叫びたい

打算が空を飛んでいる

彼らがはじけ、黒い雨はきっと降るだろう

奇形が隔離される列島

奇声をあげ続ける理想郷の赤、青、黄色

 

望んだ混沌が訪れた

その中で融解する「」

盗んだ希望も一緒に